타워 / 배명훈 を読んで【韓国書籍】
16冊目
타워 / 배명훈
タワー / ぺ・ミョンフン
SFの連作短編集です。
674階、人口50万人、史上初のタワー型独立国家である、ビンストーク(国の名前でもあり、建物の名前でもある)が舞台です。
連作短編集の本領発揮
- 各話のつながりが深く、一貫性があり、クライマックスが盛り上がる!
連作短編集と言っても、様々じゃないですか。
設定を共有するだけであまり関連がない話が載っている小説も多い中、「タワー」はすごいです。
ビンストーク(国名&建物名)の歴史に残るような大事件の真相が、後続の話のなかで、ふいに明かされたりします。
クライマックスでは手に汗を握るハラハラ感も味わえます。
- ひとつの独立国家のすべてを描く
ビンストークという国家の誕生から現在までの歴史、国防や外交、社会問題、政治問題まで。
よくぞここまで練り上げたなというくらい、緻密な設定です。
連作なので各話ごとに主人公が変わるじゃないですか。
なのであらゆる立場から、色んな側面から、ひとつの国を眺められるんですよね。
連作というのはこういう効果があるんだなと感嘆してしまいました。
政権批判
- ところどころ、韓国社会を反映していて面白い
ビンストークは、周辺国家に比べると家の価格が法外に高いんですね。
そこに、再開発によって家の価格がますます急上昇すると、家の所有者は良いですよね。資産が増えますから。
ですが、毎月大家さんに家賃を払って住んでいる賃貸人には、ひとつもいいことが無いんですね。
家の価格が上がれば大家さんは家賃を上げるので、賃貸人はそれに着いていけないじゃないですか。
家を奪われるのはいつだって庶民……
世知辛いのは現実もビンストークも同じですね。
- 垂直主義者と水平主義者の政治的争い
韓国社会に置き換えると、垂直主義者が右、水平主義者が左となります。
集会の鎮圧や、選挙の戦略等、読み応えのある話がたくさん出てきます。
現実であれば小難しい話が、小説のなかでは面白おかしく描写されていて、すごいの一言です。
- 堂々とした政権批判
「タワー」は2009年に出版されたのち、一度絶版になって、2020年に再び日の目を見た小説なんですね。
2009年の作家の後書きには「無限のインスピレーションの源泉であるL氏の健康を祈ります」との記載があるんですが、2020年の復刊ではそのL氏が「2020年現在自宅軟禁状態である前大統領」のことを言っていたと明らかにしているんです。
おそらく、イ・ミョンパク前大統領のことですね。
「健康を祈ります」は皮肉だったんですね。笑
言われてみれば、権力に批判的な描写も多く、充分に社会派小説と言えます。
ただ、SFというワンクッションがあることと、ストーリー自体が本当に面白いため、読んでいる最中は全然気付かなかったです。
小難しく見えるが、読みやすい
この小説の不思議なんですけど、軍隊の戦略や政治の選挙戦など、一見小難しい話が多いじゃないですか。
なのに、びっくりするくらい面白くて読みやすいんですよね。
しかも、一人称で語りかけてくる章や、手紙のやり取りで成り立っている章もあって、飽きないし。
他にも、きっと気付かないけれど、いろんな工夫が凝らしてあるから、読みやすいんじゃないかなあと推測します。
以上、「タワー」の感想でした!